小さなガソリンエンジンがある暮らし

原チャリ生活

僕が住む酒田市の今年の冬は長く、そして雪が多い年だったこともあり、何だかシーズン途中で気持ちが折れてしまい除雪機を購入することに決めた。

そこで取引先でもありPTA仲間でもある整備士Kさんに中古の除雪機が出たら教えてねと頼んでおいたのだが、ちょうどシーズン終盤にホンダの小さな除雪機の現物を見る機会がありそのまま購入した。

母親は「もう雪は降らないんだから来年でよかったのに」というが、中古の除雪機なんてそうそうタイミング良く出てこないことを僕は知っている。それにもし例え来シーズンはほとんど雪が降らないことになったとしても「いつどんなに降っても構いませんよ」という心持ちで冬を迎えることが出来るのはずいぶん違う。寝る前にしんしんと降る雪を眺め、明日の朝のことを考えながら憂鬱な気分で寝床に就くのはもう嫌なのだ。

納車した除雪機はいつでも立派に仕事してくれそうだったシロモノだったが、一応点火プラグを新品に変え、キャブレターに簡易的なクリーナーを吹いたあとにガソリンを抜いた。このあたりは長年古い原付バイクを所有してるので要領はわかってるつもりだ。

その除雪機を奥にしまい、代わりにその古い原付バイクを今年も準備することにした。HONDAの1983年の原動機付自転車、名前をイブという。

イブは発売されてすぐにウチに来た。確か僕が小6の頃だったと思う。僕が小さな頃は父も母もよく集金や買い物に原付を使ってた記憶がある。イブはその二代目としてやってきた。

ところが1986年に原付のヘルメット着用が義務化され、それを嫌がった父母はほとんど乗ることが無くなった。イブはそれからしばらく倉庫で埃を被ることになったが、高校を卒業した直後に僕は原付だけの免許を取り、そこからうちのイブは数年ぶりに復活することになった。

高校を卒業した直後の春休み、僕はこのイブを乗りまくった。まだ寒かったはずなのだが、そんなのお構いなしに市内を毎日走らせたのを覚えている。耳にウォークマンのイヤホンを差し、お気に入りのロックンロールをかけながら3月の風を切って走るのがとても気持ち良かったのを昨日のように覚えている。4月には上京したが、7月には普通免許を取るために帰省。その自動車学校にも毎日イブと通うので快適だった。

あれから31年経ったのだろうか。まさか今でもイブが動き続いているとは夢にも思わなかった。確かに毎年何百キロも走るわけでは無いし保管も倉庫だ。けれどもここまで消耗品交換以外に特別大きな修理をした記憶も無い。お店に頼んだのもタイヤ交換くらいで、プラグやバッテリー、エアクリーナー交換などは自分で出来るし、2ストなのでオイルは継ぎ足ししかしていない。

昔のホンダはすごいなと思う。いや、ホンダがすごいのか国産メーカーがすごいのかはわからないが、とにかく1984年にうちに来た原チャリが、当たり前のメンテナンスだけで2022年の3月になってもあの頃と変わらないまま毎年春になると動き出すことが素晴らしいと思う。

僕の本業は機械部品卸売業だ。Vベルトやベアリングや工業チェーンなどのいわゆる伝導部品を取り扱っている。エンジンなどの原動機と組み合わさって使用される。

僕はモノを擬人化することが好きではない。例えばクルマやカメラをあの子この子言ってる輩を見ると気持ちが悪いなと思ってしまうタイプである。機械なんて単なる部品の集合体なんだと常々思っている。

だけどそんな僕でも、丈夫で優秀な原動機と効率がいい動力伝導装置が組み合わさった時に機械は初めて生き物になるんじゃないかと時々錯覚することがある。そんな機械は生き物を育てるように日々接して大切に扱っていくことはそれはそれで正しいことと思うようになった。

うちのホンダイブは今年もカメラをぶら下げた僕を誰も気づかないような桜のポイントに連れていくだろう。開花が楽しみだ。

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