僕の少年時代のことを思い返してみると「剣道をやっているのは当たり前」のことに思っていた。
もともと生まれ育ったところが剣道が盛んな地区というのもあったし、母方の叔父は剣道の先生であり、その息子、つまり僕のいとこが小学生時所属したこの地域の道場は全国大会で3位入賞を果たすほどだった。
当然の流れで僕も小学校入学と同時にその道場に入門することとなり、そこには僕個人の好きとか嫌いとかは介入することなく、ただただ竹刀を振り続ける日々がそこから始まった。
とはいうものの、今振り返ってみても別に「親にやらされた」という感覚も無ければ、他のスポーツをやりたかったという悔いも無い。むしろやってよかったなという気持ちだ。
こうやって書くと「あぁ、だからオガーさんは息子の剣道に一生懸命なんだな」と思われるかもしれないが、じつのところ僕は息子に剣道を薦めたことが一度しかない。彼が三年生の夏に突然「格闘技を習いたい」というので「だったら剣道スポ少に入れよ」と言っただけである。
剣道を始めてからも彼は「強くなりてぇ」が口癖になった。ひょっとしてこいつは学校でいじめられているのか?とも思ったがそんなことは全く無いらしい。単に少年時代特有の「強い男」に憧れてるだけのようだ。
強くなりたいと子どもが思っていることに対し、親がそれを叶えられるかもしれない要素を少なからず持っているならば全面サポートをするのが義務だと僕は思っている。僕はかつて自分が感覚でやってたことを言語化することに努め、また、現代での剣道事情をみつめなおし、それをミックスさせた自分なりのコーチ理論を確立できるようひたすら勉強した。
先に書いたとおり、僕は剣道に好き嫌いを考えたことが無かったが、どうやら息子は剣道が好きらしい。予定表を眺めながら次回の稽古日を楽しみにしていたり、YouTubeで高校剣道を観漁りながらお気に入りの剣士を探して研究したり、突然、自宅の廊下で技の練習をやりだしたりしている。
そんな彼にとって最大の敵は度重なるコロナ自粛であるが、僕としてはそれを好機とすべく、自主トレメニューを組んであげて何とかやっているのが現状だ。
そんな息子が学校の図書館で「まっしょうめん!」という本を見つけてきた。現代において剣道を題材にした小説はかなり珍しいので僕も読んでみた。
ネタバレはしないがこれはかなり読みやすい。そして物語に登場する道場の監督はまさに生粋の剣道人であるが、彼の言葉には大きく頷いてしまう部分もあった。
確かに人生には困難が溢れている。その後を左右するような大きな勝負どころだって数度は訪れるだろう。そのときに腰を入れて真正面から腰を入れた渾身のメンが打てる人間になれるようになってほしい。とどのつまり僕が息子に望むのもそこなのだ。そのへんの試合で勝った負けたが最大の目標ではあまりにも小さすぎる話ではないか。
現代においては確かに要領良く、そして合理的に立ち回れる人間になるのも大事だ。たまには人の裏をかくことだって状況によっては必要なことなのかもしれないし、相手の出方に応じた動きを磨いていくのが上手な生き方なのかもしれない。
だが、そういったことを身に着けるのはもう少し大きくなってからでいいんじゃないかと思う。今は…せめて中学生あたりまでは、自分で間合いに入り、我慢をし、そして真正面から打っていく大切さを剣道を通じて学んでほしいと思う。
この「まっしょうめん!」は剣道の謎めいた部分がストーリーに沿ってさりげなく解説されているため、初心者やこれから始めようと思っている人だけではなく、これまで剣道に縁が無かった人にも興味深く読める本だと思う。
ということで現在またコロナが世の中を沈ませている。だったらこの機会に読書でもどうでしょう?