昨年の秋くらいから僕は中学剣道部に顔を出していて、コーチ…の真似事みたいなことをさせてもらっている。
今年度になって顧問の先生が変わったというので、先週体育館へ挨拶に伺った帰りのこと、体育館出入り口の前で女子中学生10数人に囲まれた。なんだなんだおれもとうとう芸能人か??
…なーんてね。ついこのあいだ小学校を卒業したばかりの顔馴染みの連中だったんだけどね。
この子たちとは小学一年生からの付き合いだが、相変わらず「なにしにきたの?」とか「○○部に入ったよ」とか一方的に話してきて、そのへんに限ってはあの頃からまるで何も変わっていない。
そしてひととおり会話をした後、一人の子がこう言った。
「オガーさん、写真撮ってよ」
そのとき初めて僕はカメラを持っていないことに気づいたのだった。それを伝えると「へぇ、珍しいね。じゃあね」と言って帰っていった。
じつは最近、僕は写真を撮るのに飽きた。
いや、そこまで言うと嘘である。実際、桜が咲いてるときはいろいろ撮った。でも、毎日何かしらのカメラを持ち、「何かかっこいいの無いかな」というアンテナを立てながら生活することをお休みしていたのである。
理由は簡単で、さっきの女の子たちを含む、息子学年の卒業制作で全てのやる気を出し切っちゃったのだ。つまり空っぽ、エンプティなのである。
実際アレが終わってから「じゃあこれからはもう自分のためだけに写真を楽しんでいくか」と思ったのだが、何だかまるで写真を撮りたいという欲が湧いてこない。とどのつまり、ここ6年間、彼らのドキュメンタリーを撮るという使命感と自分の世界という両輪で歩いていたからこその僕の写真や動画の趣味活動だったのだろう。それだから楽しくやってこれたんだろう。
で、3月でそれも終わったので、つまりひとつの車輪が止まってしまったのだ。そしたらもうひとつもストップしてしまい、今の僕の趣味は靴磨きと、今年のお正月にメルカリで買った古いギターを奏でることだけになってしまった、というわけである。
じつはもうこのままでもいいか、とも思っていた。
誰にも頼まれてもいやしないのにやらなければいけない、と勝手に意気込んだやったところでロクなことになりゃしない。そういうのはロックンロールバンドをやってたときもたびたびあったが、たいていロクなことにならなかった。
だけど今回彼女がボソっと言った「珍しいね」が妙に引っかかったのも確かだ。そしてまるでひみつ道具を出せないドラえもんを見るようなあの目もしゃくにさわった(笑)
そもそも僕は何で写真を撮り始めたんだっけ?と考えた。いや、考えなくてもわかる。昔のロック・ミュージックのジャケット…というかブックレットに出てくるようなかっこいい写真を撮って独りで悦に入りたかったのだ。
だから、たまに勘違いされるが、僕は別に自分の住んでる酒田という町を記録で残したいとか、酒田のいいところを写真で他者に紹介したいとかそういう気は全くなかった。
ただ、ただ、かっこいい写真を撮りたい。その対象が僕の中では絶景や観光スポットではなく、自分の生活圏の範囲の中だっただけである。
それをちょっと忘れていたかもしれない。だからまた路上から始めようと思い、カメラを握りしめた。
何だかやる気が出てきたぞ。また僕の中の車輪が動き出した感じかな。