30年越しのコインローファーの夢

服装

メルカリに2000円で売りに出されていたリーガルの黒いローファーを衝動買いしてしまった。

別に夏に向けてローファーを探していたわけではない。ローファーという靴が好きというわけでもない。どちらかというと今の自分の好みランキングで言えば低い順位である。そもそも古いチャーチのタッセルローファーを一足持ってるから、僕にとってのローファーはそれで充分事足りる。

なのに購入してしまった。即買いしてしまった。なぜか?それは若い頃の僕が欲しかったけど買わなかった靴だったからだ。

リーガルインペリアルグレードの2701。現在は廃盤になり2177というモデルになってるらしいが、いずれにせよリーガルの定番コインローファーだ。

当時、この靴が僕は欲しかった。このピカピカのローファーを履き、ちょっとだけ細身のパンツにヨレたシャツを着て、上にベージュのステンカラーのコートでも羽織りつつ、新宿の南口から出たところで甲州街道を行き交うクルマの流れを目で追いながら、ポケットから取り出したタバコに火をつけ、星の見えない東京の空に向かって煙を吐き出したかった。

でも、買わなかった。買えなかった。2万いくらの靴だから当時の僕でも頑張れば買えたのに買わなかった。たぶんローファーという履き物に踏ん切りがつかなかったんだと思う。

当時のロック屋どもはブーツ全盛期だったから、バンドマンだった僕はローファーを履いてスタジオリハーサルに向かうというのにどうしても抵抗があった。ジュディアンドマリーが好きだったのに公言出来ずこっそり聴いていた頃の僕だから仕方が無いとも言える。

いや、やはり買うべきだったのだ。このコンクリートジャングルを歩くのにウエスタンブーツなんぞを履いている奴や、工員でも無いのにエンジニアブーツを履いてる奴を尻目に、僕は軽やかにローファーを履いてロックンロールをやるべきだったのだ。

だが。

今回のメルカリ2000円購入事件は、そういう「若い頃の忘れ物」を取りにいったような淡いストーリーではない。単純にあの靴が2000円なんて値段で出品されていることに腹が立ったのだ。俺の青春は2000円では無い。

そんなわけでポチっとした次第である。写真にはコインローファーらしくコインが挟んであった。コインローファーに本当にコインを挟んでいる姿を初めて見たが、取引メッセージで「それは出来れば外して送ってください」と頼んだ。

で、本日到着。

予想以上にボロボロだった。いや、よく見るとひび割れとかや型崩れはないのだが、その寸前というべきカサカサお肌の靴だった。

まず、汚れを落とした。リムーバーをぶっ掛けで拭いて拭いて拭きまくる。いくら拭いてもウェスが黒ずむ。いったいどれだけ汚れてるんだという話だ。

いっそのことお湯で丸洗いしたい衝動に駆られたが我慢して拭く。ようやく汚れが落ちたところであれやこれややって、最後にちょっとばかしの水分とワックスでピカピカに仕上げておしまい。

出来た。履いてみた。かっこいい。でも、何だかもう満足してしまった。これどうしよう?50過ぎのおっさんが黒のコインローファーで出掛けていいものなのだろうか?白いソックスに合わせたりなんかしたら通報されるのではなかろうか。

とりあえずステンカラーのコートとヨレたシャツを用意せねば。

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