3月になったので倉庫二階に置いてある革靴を引っ張り出してきた。真冬はブーツばかりだったが、ようやくこれらも履ける季節になってくる。少し磨いてやろうかなと思ったが、窓から入る光が綺麗だったのでまずは写真を撮って遊んだ。
僕の所持している靴はだいたい15足くらいだろうか。その中で革靴はだいたい10足ちょっとあって、英国のChurch’s(チャーチ)というブランドの物が多くある。人間50年も生きてれば自然と物は増えるものだ。
ちなみに僕の場合、いろんな革靴を履いた末に行きついた先がチャーチの靴というわけではない。たんに若いときにバイトしていた古着屋の店長の影響と、その店に入って来るたくさんの靴に触れたときに一番気に入ったのブランドというだけである。
気に入った靴を履くと気分が上がる。気分が上がって出掛ければいい一日となる。僕にとってはそれがチャーチの靴であるというだけで、特別他人にお奨めしたいという気持ちは特に無い。
そんなことを考えつつ何足か写真を撮って遊んでいたのだが、この靴だけはいい思い出が無いという靴があった。それはチャーチのコンサルという靴である。
社会に出てる男なら誰でも一足は持ってるであろう黒の内羽根ストレートチップ。これさえ持っておけばどんな式典に出たとしても、自分が恥ずかしい思いをすることも相手に不快な感情を抱かせることもないという必需品だ。
僕には他にもストレートチップはあるんだけど、それらは日常でスーツスタイルや業務の時に履いていて、冠婚葬祭の時だけこのコンサルを履こうと自分の中でルールを決めていたら、振り返れば近年では葬儀の機会が一番多かったというわけだ。だからいい思い出が無い…というより、この靴を履くときには楽しい気分だったことが無かったいう意味で、つまりこのコンサルは誰かとお別れをするときにばかり履いていたというわけだ。
何で自分の中でそんなルールを決めたのかはわかっている。それはこの靴が高かったからだ。というより少々無理をして手に入れたという感覚なのだ。
いまチャーチの靴は高い。2000年代になってPRADAの傘下に入ってからハイブランド戦略に舵を切ったのはわかるが、近年になってその傾向はますます強くなった。現行のコンサルは何と17万円もする。
もちろん当時はそんな価格ではなく半分以下で買えた。それにしたって僕にとっては日常的に履きつぶすような靴の値段ではなかった。
だから大切にした。でも大切にする方法を間違った。靴を大切にするというのは履く機会を限定するということではないのだということが今になってようやくわかった。
だってそんなのこの靴が可愛そうじゃないか、と思う。ふと眺めたときに思い出すのが悲しいことばかりではあまりにもこの靴が浮かばれない。
この春からはどんどん履いて行こうと思う。そして壊れたら修理をしながら大切に履いて行くのだ。今までの悲しい思い出の倍以上に楽しい思い出を作ろうと思う。