今はもういないしんちゃんの写真をたくさん撮った話。

気が付けば僕はものすごい近代設備が整ったとある大病院のエントランスにいた。

手には先日思い切って手に入れたデジタル一眼レフのフルサイズ機「EOS 6D」がある。古かろうが何だろうがとりあえずフルサイズ機。もうこれで自分で撮った写真を見ながら根本的な問題うんぬんで頭を抱えることは無くなるだろう。道具で解決出来る問題ならばさっさと踏み切った方がよいのだ。

廊下の向こうから従兄弟のしんちゃんがやって来た。今日はこのカメラでたくさん写真を撮ってあげると約束したのだ。

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久しぶりだね

彼は僕よりちょうど10歳年上の従兄弟だ。だから「しんちゃん」なんて呼んでるけどおっさんである。でも子供の頃からの付き合いならば誰しもがそんなもんだろう。

ずいぶん長いこと会ってなかった。しんちゃんはちょうど12~3年ほど前に肺がんを患い入院してたから。だけど久しぶりに会うしんちゃんは思ってたよりもずっと元気そうだった。

「久しぶりだな。お、そのカメラで今日は撮ってくれるのか?」

「うん。これだったらキレイに撮れるはずだよ」

「じゃ。さっそく頼む」

僕としんちゃんは長椅子から立ち病院内を移動した。

一枚撮って液晶モニターでプレビューを見せた。しんちゃんはテンションが上がり、もっとどんどん撮ってくれと小走りであちこち動き回った。

「あ、そうだ。着替えていいか?ちょっと待っててくれ」

どこから持ってきたのかお気に入りだという革ジャンを身に纏いだした。

どんどん撮る

およそ病院には似つかわしくない革ジャン姿のしんちゃんは、どんどん場所を変えシャッターを要求した。

「H美も呼んできていいか?」

「うん、もちろん」

H美さんはしんちゃんの奥さんである。

彼らが結婚し最初の子供が生まれて間もない頃、僕は何故か一緒に東京ディズニーランドへ遊びに行っている。簡単に言うとその頃ちょうど僕は都内に住んでいたため呼び出されたわけだ。

あの日のことを思い出しながら僕はシャッターを切る。最初は恥ずかしがってたH美さんもだんだんノリがよくなり、恋人達のようなツーショットがどんどん撮れ始める。

「どうせなら子供たちと一緒の写真も撮りたい。呼んでくるからちょっと待っててくれ」

しんちゃんはそういい残しどこかに消えた。

しばらく待つ

エントランスの長椅子で僕は待っていた。けれどもなかなか戻ってこない。

「まぁ子供たちは女の子だしな。おめかしに時間が掛かってるのだろう」

気長に待つことにした僕だが、結局腕を組みながらウトウトしてしまった。

・・・・・

・・・・・

・・・・・大丈夫ですか??

女性の声で僕は目が覚めた。看護師さんだった。

「え?ああ、大丈夫ですよ。人を待ってる間に寝てしまったみたいです」

「さっきから様子を見てたんですけど、ひょっとして具合が悪くなったのかと思って」

「??」

「あなた、さっきから一人でニコニコ話しながら、あちこちで写真撮ってましたよ。まるで目の前に誰かいるような感じで」

ああ、そうか。やっぱりそうだったのか。やっぱりしんちゃんは8年前に亡くなっていたのだ。

「ええ、あ、うん。じつは8年前まで入院してた従兄弟がいましてね。当時僕、お見舞いに来たんですよ。でもそのときしんちゃん寝ててね。結局その日は話すことが出来ないまま帰っちゃったんですけど、それがしんちゃんとの最後でね。あまり考えたこともなかったけど、やっぱりどこか心残りだったのかなぁ」

看護師さんはニコニコしながら僕の話を聞いていた。そしてまたある声が聞こえた。

「・・・ちゃん!父ちゃん!昼ごはん出来たって!起きて!」

それは息子による昼食の知らせだった。

昨日は息子の幼稚園時代の仲間達とキャンプ。そして我々親子は泊まらず帰ってきたのだったが、僕だけ一人朝食タイムに顔を出してきた。

それから帰ってきたのが9時頃。どうやらまたベッドで寝てしまったらしい。

昼食を食べながら

冷凍食品のカルボナーラを食べながら考える。

なぜあんな夢を見たのだろう?いや理由はわかっている。

昨日、そして今朝とたくさん子供たちの写真を撮ったので、恐らく僕自身、子供時代のことが蘇ってきたのだろう。

しんちゃんとカブトムシを捕まえに行ったこと。

キャッチボールを教えてもらったこと。

山に釣りにいったこと。

そしてキャンプをしたこと。

全て懐かしい思い出。三人兄弟の長男の僕にとってしんちゃんは兄貴だった。

しんちゃんに会いたい。でも会えるわけがない。だからせめて写真を探そう。僕んちのアルバムにも何枚か残っているはずだ。

現代において写真という媒体をアートだの作品だの言い表したくなる気持ちもわかる。けれども僕にとって写真とはまず記録だ。まず何よりそれが大前提。遠い記憶を少しでも鮮明に思い出すための引き金。

カルボナーラはいまいち美味しくなかった。僕は息子に言う。

「おい、夕方あたり涼しくなったら一緒に写真撮りに行こうぜ。宿題終わらせてカメラ準備しとけよ」

「うん、わかったー」

僕の三連休最後の今日は、昨日届いた中古のEos 6Dの試し撮りだ。どんな画が撮れるかな。

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