昨日は珍しく一人で飲み歩いた。
お酒が弱い僕にとってはこれはとても珍しいこと。ただ、どうしても会って話しておかなければいけない人がいたのだ。僕はあらかじめ胃薬を飲み、そして念のために頭痛薬をポケットに忍び込ませ、そして朝から降ったりやんだりだった雨は一応あがったようなので、傘は持たずに家を出た。なるべくなら傘なんかに片手をふさがれたくない。
目的地へ向かう途中、いつものようにシャッターを切ってはみたものの今日はロクなものが撮れない。それに清水屋前のモールが新しくなってて、上から照らされるLEDライトがやけに眩しく感じる。次にこっち方面に出歩くときはココのルートはやめよう。
そのまま日吉町へ向かう。幸い着くまで雨は降らなかった。
焼酎バー 如香
如香のママさんから「8月一杯で店を閉めることになった」という知らせを聞いたのは今月最初の頃だ。
びっくりして思わず「だったら今月は3回は顔出しますよ!」と言ってみたものの、結局ここまで一度も来れずじまい。そして時間はあっという間に過ぎた。
結局そんなものなのだ。「会おうと思えばいつでも会える」というのは、じつはそのまま会えないことの方が多いのだ。だから会えるうちに絶対に会いに行かなければいけない。
時間が早いのもあってお客はまだ僕一人だけだった。すっきりするというので焼酎のコーヒー割りみたいなのをオーダーした。初めて飲んだがこれがとっても美味しい。だから飲み過ぎないように注意しながらママさんといろんな話をした。
ママさんとはライブイベント会場やその打ち上げの場で会うことの方が多かった。だからといって僕にお店の思い出が無いわけではない。数える程度しか来れなかったかもしれないが、それでも名残惜しさを強く感じる。
「写真を撮っていいですか?」僕はママさんに言う。快くOKの返事をもらった。
数年前、ママさんに「オガーさんは何のためにバンドをやっているの?」と聞かれたことがある。
たぶん聞いた本人に深い意味は無かっただろうし覚えてはいないだろう。けれどもそのとき気の利いた答えを返すことが出来なかった僕は、未だにそのことが頭をよぎることがある。
その後バンドは無くなって今の僕は写真を撮っているわけだが、もしあのときと同じようにママさんに「何のために写真を撮ってるの?」と質問されたら、また上手く答えることは出来ななかっただろう。
コーヒー酎ハイ3杯ぶんの酔いが回ってきた頭でそんなことを考えていた僕は、また会いましょうと言って店をお店を後にした。ママさんお疲れさま。ありがとう。
ユニオンジャックコレクター
そのまま元バンドメンバーの店に来た。彼の作るカレーライスは美味いのだ。
「オガーさん、またバンドやりたくなんないのー?(福島訛り)ドラム叩きたくなんないのー?」
「おれ楽器を演奏したくてバンド始めたことなんてないぞ?」
「??」
「こういうバンドをやりたいという明確なビジョンが最初にあるのよ。アレだってそうやって始めただろ?」
「あぁそういえばそんな感じだったね。じゃ、今はないの?」
「いまいちピンと来ないかな」
そんなことを話しながらカレーを食った僕は店を後にした。
ミスチバスボーイ
「いらっしゃーい」
相変わらずマスターの声は元気だ。そして事前に顔を出すことは伝えておいたので、いつもの仲間達も先に来てくれていた。
ほとんどバカ話で盛り上がる。それがいい。ミスチバスボーイはそこがいいのだ。シリアスな雰囲気になりそうなときもあるが、最終的には陽気な気分で帰ることが出来る。ここはそういう場所だ。
そんな感じで盛り上がっているときに、ふと一枚のポスターが目に入った。
11月に酒田で行われる森山大道氏の写真展のポスターだ。僕は先だっての夏休みのときに酒田市美術館にいったとき同じポスターを目にしていたからこの情報は知っていた。
そして僕も妻も「これは見に行かなきゃいかんね」と話しつつも「なんで酒田でやるんだろうね」と疑問に思っていたのは事実。
そして失礼だが、まさかミスチバスボーイというお店でこのポスターを見ることになるとは心の底からビックリした。本当に一瞬わけがわからなかった。
「マ、マ、マスター。なんで森山大道写真展のポスターがここにあるの?」
詳しくは書けないが、とにかく重要な関係者の方がお客さんとして来店し、このポスターを置いていったとのこと。
僕があまりにもビックリしているので「え?オガー君、この写真家さん知ってるの?」とマスターが聞いてきた。
知っているなんてもんじゃない。というよりちょっと写真をかじった人なら誰でも知っている。間違いなく日本の写真史に名を残す人。
それに僕が散歩しながら写真撮ってるのも、もともとは森山先生の真似だ。影響なんて恐れ多いものではなく、ただの真似。モノクロのハイコントラスト仕様にするのも真似。言い訳ではないが、ストリートでスナップをやりたいと思った人ならみんな誰もが一度は通る道だと思う。
あまりのことに本当に驚いた。そしたら眠くなってきたのでタクシーを呼んでもらい店を後にした。
帰宅後
シャワーを済ませさっさと眠ろうとしたけれども、何だかすっかり頭が冴えてしまった。
ふとスマホでAmazonプライムフォトに保存してある、最近自分で撮った写真を眺めてみた。
「・・・酒田だって悪くないじゃないか」
そう。酒田だって悪くないのだ。見慣れた景色だって、見方を変えればまたいろんな良さが発見できる。それをおれは証明したいのだ。
思えばそうだ。「田舎のおっさんバンドだって、優雅にあざ笑うようにロックンロール出来ることを証明してやろうぜ」
3年前の今頃もスタジオでよくそんなことを言ってたな、確か。
今日3軒のお店を廻って、それぞれ話したことを思い出してたらようやく眠くなってきた。
このままこの街の道端に落ちてるモノを拾い続けてみよう。それに何の意味があるのかなんて・・・知らん。そのうち誰かが勝手に意味付けしてくれるだろう。