【路上スナップ】表現の自由VS肖像権の侵害【富士フィルム騒動】

写真や動画のこと

2月5日、富士フィルムがX100シリーズ最新作のプロモーション映像を公式サイトに掲載し、それがいわゆるSNSでの炎上騒動を引き起こし、結局それは半日で削除され、代わりにサイトには謝罪文が載せられた。

動画は公式サイトでは見れないが、YouTubeあたりで検索されるといくつか出てくる。もちろんここでは直接リンクを張るようなことはしないので、興味のある方は適当にググって欲しい。

一応説明しておくと内容はこうだ。

鈴木達朗氏という一人の写真家がコンパクトデジタルカメラ、X100を使って渋谷でストリートスナップを行っているドキュメンタリー風の仕上げで、まずこういったジャンルに興味のない方が見たらびっくりするような撮影方法を行っている。

カメラ片手にすれちがいざまの人間を撮る。その写真にはもちろん撮られた人間の驚いた様子や嫌がる表情がばっちり写るという感じだ。それをひたすら繰り返している。

じつはこの行為自体は真新しいものではない。昔の大御所たちの中には当たり前のようにやっていた人も多くいる。

ただ、もはや時代が違うのだ。カメラに希少価値があった昭和の古い時代なら「街と共に人々を記録する」という大義名分が成立しただろう。だが、誰もが写真撮影可能な道具を持って歩いてる現代だと、あの撮影はもはや「撮影者の度胸試しの結果」としか一般の方には受け止めてもらえない。

さて、じつはというと動画自体を僕は結構早く見ている。というのも新型X100の噂が以前から出ていたこともあったし、正式発表された2月5日の早朝からサイトを眺めていたのだ。

僕は密かにX100というカメラはいつか欲しいなぁと思っていた。そのことは以前、記事にも書いている。

今回の動画をみて僕がまず驚いたのは、これを公式でやったプロモーションという点に尽きる。それはカメラメーカーがこういったスナップ撮影…というより強引な撮影を文化として認めてる行為に近い。

現代の路上写真事情は表現の自由VS肖像権やプライバシーの侵害といった図式だ。どこまでがセーフでどこからがアウト、それを誰もはっきりしたことは言えない状況が続いている。だから撮影者自身が自分でルールを設けてやっている。

僕にしたってそうで、じつはブログ等にアップされている路上写真に個人が特定されるような写真はアップしていない。ただ、それも全部がそうではなく、例えば祭りの参加者だったり、明らかに町並みが主題だけれども結果的に端っこに写ってしまったようなのは別だ。そして僕はモザイク処理というのをあまりしたくない。そんな処理を施すくらいならアップしない方がマシという考えである。

そして当たり前だが、アップしている写真というのは僕の撮影した中のほんの一部であり、普通に街を撮った中には他人の顔がはっきり写ってしまった写真だってハードディスクにあるはずだ。

そんな感じで、僕だけではなく、日本中の、いや、世界中の路上スナップ愛好家は日々多かれ少なかれモヤモヤを抱えながらやっているのだ。それが現状。

そんなところにカメラメーカーがああいう撮影を認めてきたから驚いた。そしてもっと驚いたのは炎上したから削除して謝ったということである。これには心底がっかりした。

現在、炎上は写真を撮る人間以外にも飛び火し「こんなふうに撮られたくない」「盗撮だ」に至った。

もっともである。僕だってこんなふうに撮られたくないし、もし目の前で家族がこんなおかしなカメラマンに突然出くわしたら胸ぐらのひとつはつかむだろう。

だが、それはあくまで当人同士の話なのである。撮った撮られたのあいだだけでやっておけばよかった問題を、今回カメラメーカーが勝手に認め、そして大衆の怒りに屈し勝手に謝った。

ある意味、表現の自由VS肖像権とプライバシーの侵害問題にひとつの決着がついたのが2020年2月5日といえるだろう。いい迷惑である。

富士フィルムはどう考えても動画を削除すべきではなかった。百歩譲って削除したにしても謝罪はいらなかった。コメントを出すにしても「プロモーションに行き過ぎがあったかもしれませんが、当社はあれも写真文化のひとつと考えております」で良かったんじゃないか、と思う。

最後にひとつ、もちろん出演した当のカメラマンも叩かれ、容姿や人格攻撃まで始まっている。

そういうのはやめよう。彼は今回のプロモーションのためにああいう撮影方法を始めたのではない。普段からああいう撮影をしているカメラマンにメーカーが声を掛けたはずだ。もちろん僕だってああいうことをやってるのが友達にいたら止める。けれども赤の他人が人格を攻撃したり、ましてや裁こうとしたりしていいわけはない。

それと、もともと写真愛好家とそうでない人たちにははっきりとしたズレがある。それを社会全体で少しづつ修正していくときが来たのかもしれない。

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